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古典現代語訳

2014年2月 5日 (水)

篁物語あとがき

 とても短い物語の中に、小野篁の一面が垣間見ることができたでしょうか。
 篁と妹の恋や、右大臣の娘との結婚は、事実ではなく創作のようですが、嵯峨天皇を感心させた才能の高さや、勅撰和歌集に採られた恋歌や哀傷歌の数々、冥官伝説からヒントを得て、『篁物語』は書かれたのだと思います。

 さて、次回は『狭衣物語』の現代語訳を予定しております。
 数ある写本のうち、岩波書店の日本古典文学大系の底本となった内閣文庫本で訳します。
 内閣文庫本は、巻一巻末が他の系統の写本と違い、話が加筆されています。
 加筆された部分は原作者ではなく、後人の筆と思われますが、読者の期待に応えた形で書き加えられたものと感じたので、内閣文庫本を底本に選びました。
 連載開始日は、決定次第お知らせします。
 どうぞお楽しみ。

篁物語年立

物語一年目
 篁、妹に漢籍を教える。
※史実では弘仁十三年(八二二)春、篁が二十一歳の年に文章生に及第。

 篁、妹に恋心を抱き、歌を詠みかける。

 十二月十五日、月を眺めていると「すさまじき」と非難する人に、篁反論の歌を詠む。

物語二年目
 二月初午の日、妹は稲荷神社に参詣。
 兵衛佐、妹を見初める。
 兵衛佐、妹に文を贈る。
 篁、兵衛佐を追い払う。
 篁と妹、契る。
 妹、懐妊する。
 篁、妹に花柑子や橘の実を贈る。
 母君、二人の仲を知り、篁を追い出して妹を監禁する。
 妹死去。

物語五年目
 篁、右大臣の三の君と結婚。
 妹の霊、篁が三の君と結婚したことを恨む。

 死後三年たって、妹の霊が篁の夢の中にも現れなくなった。

物語?年目
 篁、宰相よりも上の位(参議・四位以上)となる。
※史実では承和十二年(八四五)に従四位下に叙される。

2014年2月 4日 (火)

篁物語4

 時の右大臣の娘をくださいと、篁は漢詩文を面白く作って、右大臣が内裏に参内しようと車で通るたびに、威儀を正して文を渡した。
 右大臣が手にとって見ると、
「承知した。今、家に帰ってから、お返事しましょう」
 と言った。
 篁は大学寮に入って行った。
 右大臣は屋敷に帰った。
 娘は三人いる。
 大君に、
「しかじかかくかく。こういうことがあった。どうであろう」
 と言うと、怒って泣き出してしまった。
 中の君に、同じことを聞かせたら、姉と同じであった。
 右大臣は、三の君に話した。
 三の君は、
「どのようなことでも、お父様の仰せに従います」
 と言ったので、婚礼の準備にとても美しく寝殿をしつらえて、吉日に篁を呼び寄せた。

 右大臣から連絡があったので、篁は出かけたが、悲しいことに、橡色(つるばみいろ)の、破れた衣を着て、踵の磨り減った沓を履いて使い古してぶくぶくになった書物の帙(ちつ)を持ってやって来た。
 帳の内に入って、まず三の君にこの文巻を贈ったが、三の君は受け取らないので、篁は帯に挟んで出て行こうとしたのを、三の君は皮の帯に手をかけて、引き止めたので、篁は留まった。
 これを垣間見て、父の右大臣は、
「大層上手くやったな」
 と喜んだ。
「篁が出て行ってしまったら、いかにも人聞きの悪いことであっただろう。三の君が篁を引きとめたのは、賢いやり方だ」
 と喜んだ。
 婚礼の披露宴が行われる三日の夜、右大臣家ではとても立派に準備して篁が来るのを待っていた。
 普通露顕には大勢共をつれてくるのだが、篁は、ただ一人童を連れてやって来た。

 さて、この頃、篁は妹がいた家に行ってみると、妹のことがとても愛おしく、悲しかったので、そのままそこで眠った。
 妹は、

  見し人にそれかあらぬかおぼつかな物忘れせじと思ひしものを
(この方は、私が愛した人なのか、そうでないのか、はっきりしないわ。私のことを忘れたりはしないと思っていたのに、他の女と結婚するなんて)

 と言ったので、篁は右大臣の屋敷にも行かないで、泣いていた。

 久しく篁が来ないので、右大臣は、
「変だな」
 と思った。
 七日ばかりたって、篁は来た。
「何故おいでくださらなかったのですか?」
 と三の君が聞くと、篁は素直な人なので、事情を隠さずに妹のことを言えば、妻の三の君は、
「とても理想的で、しみじみと胸を打たれます。ですが、私のためにも、そのようなことはなさらないでください。格別に、亡くなられた人は、心も姿も、そのように優れた方であったからこそ、何年たっても、あなたは忘れられないのでしょう。そのような人と結ばれたあなたと、私は知らずに結婚してしまいました。後世はどうなってしまうのでしょう。

  あかずして過ぎける人の魂に生ける心を見せたまふらん
(あなたは飽くことなく亡くなった人の魂に、生きている時と同じように心を寄せています。私といても、あなたの心は亡き人のほうを向いているのでしょうね)

 ああ、このような身の上の私が恥ずかしい」
 と言うと、篁は、
「何故、そのように思われるのです。そんなことでは、私の心の最後を見届けてはくださらないでしょう。あなたの魂のありようを見られるように、試しに私と離れてみませんか?」
 と言って、

 「別れなば己が魂魂なりぬともおどろかさねばあらじとぞ思ふ
(別れたら、二人の魂も離れ離れになるが、相手の魂を動かさないようでは、夫婦とは言えないと思う)

 かつて、私が帰ろうとした時に、あなたが引き止めて、今日まで私をあなたの傍に留めさせた。それなのに、あなたの言い分は、煩わしい」
 と言った。

 この男は、若い間は、それほど三の君への愛情が深くはなくて、他の女に通って妻を独り寝させたりした。
 やがて、認められて出世して、宰相よりも上の身分になった。
 これこそ、有名な小野篁である。
 漢学の才は言うまでもない。
 歌を作ることも得意で、この国の人では、篁に並ぶ者はいなかった。
 篁の子孫は、このように歌を詠まない人はいなかった。
 父右大臣の言うことを聞かなかった姉二人は、とても身分の低い人の妻になって、妹婿の恩恵を受けた。
 篁は大層出世したので、この三の君を、この上もなく大切にして、面倒を見た。
 今の人は、まさに大学の学生を婿に取る大臣がいるであろうか。
 右大臣は、身分を問題にしないで、ただ、篁の志の高さ、容姿、才能を見込んだのであろう。
 また、あるであろうか、このように大臣の娘を欲しいと思って詩を作る人は。

おわり

2014年2月 3日 (月)

篁物語3

 例のように漢籍を読むのは、
「内侍にしよう」
 という心積もりがあって、親は娘に漢籍を習わせるのであった。
 他の男と文を交わしたことを、篁は文句を言ったのだが、この兄は、妹への恋に心を惑わして、妹のことをいつも思い出す。
 篁は言う。
「このようにあなたを思い出し、あなたを思う限りない心を知らずに、他所の男を思っているのは、辛くて。

  目に近く見る甲斐もなく思へども心を他にやらばつらしな
(目の前でこんなに近くで見ている甲斐もなくて、いくら思っても、あなたは目の前の私ではなく、他の男に向いているのなら、辛い)」

 と言ったので、妹は、
「人の心を知らないで。

  あはれとは君ばかりをぞ思ふらんやるかたもなき心とを知れ
(愛しているのはあなただけ。他の人に心を向けることなんてない私の心を知って)

 鈍い人ね」
 と言ったので、篁は少し心が晴れて、

  いとどしく君が嘆きの焦がるればやらぬ思ひも燃えまさりけり
(ますます激しく、あなたを思う私の嘆きは、あなたを恋焦がれるあまり、燃え盛る)

 このように言って、二人の心は通い合ったけれど、親にも秘密にし、人にも差し障りがあるので、心ゆくまで長く語ることはしなかった。
 されど、どうやって入ったのであろう、篁はこの妹の寝所に入ってしまった。
 とてもこっそりと、まだ夜が明けないうちに、篁は寝所から出て行った。
 たまたま妹の寝所に入り込んだけれど、その後は逢瀬を重ねることは難しかった。
 昼は漢籍を読むので二人向き合っているが、夜は会えないから、かえって心はうわの空で、篁は、
「どうしよう」
 と思い嘆いて、

  うちとけぬものゆへ夢を見てあかぬもの思ふことにもあるかな
(あなたとうちとけて会える時がないゆえに、夢にあなたを見て目覚めても、飽き足らずあなたを思うこの頃ですよ)

 妹の返歌は、

  寝を寝ずは夢にも見えじをあふことの嘆く嘆くもあかし果てしを
(眠らなければ夢にも見えないでしょう。私はあなたに会えないことを嘆き嘆いて、眠れずに夜を明かしてしまったのに)

 このように夢のような逢瀬を持った人は、懐妊した。
 漢書を読む気もない。
「いつもの月の障りがないわ」
 などと、気分の悪そうな妹の様子を見て、女房たちは言う。
 この兄も、
「可哀想に」
 と思った。
 春のことだったからか、妹は物も食べず、花柑子や橘の実だけを欲しがったので、懐妊したことを知らない親たちは、探して食べさせた。
 篁も、大学での饗応で出された柑子を、
「全て取りたい」
 と思ったけれど、二、三個ほど、懐紙に入れて持ち帰り、妹にあげた。

 「あだに散る花橘の匂ひには緑の衣の香こそまさらめ
(すぐに散る橘の花の匂いより、私の六位の緑の衣の香の方が、優っている――あなたを簡単に諦めた兵衛佐よりも、私の愛は変わらない)

 この実を召し上がると聞いたので、あげましょう」
 返事に、
「この実は、お兄様が懐に入れて持ってきてくださったのね。

 似たりとや花橘をかぎつれば緑の香さへうつらざりけり
(袖の香がするという橘の花と似ているかと、この実の匂いを嗅いだら、あなたの緑の衣の香すら移っていなかったわ)」

 こうしたことを、母君が聞きつけて、何も言わずに兄妹の様子を伺った。
 母君は二人が向かい合っているところに踏み込んで、娘の手を取って引っ張って連れて行き、部屋に閉じ込めてしまった。
 これを父君も聞いて、穏やかな人であったから、
「息子も賢い者で、娘も幼子ではない。さしたるわけがあるのであろう。どうか許してやって、話をしなさい」
 と言うが、母君は、娘に、
「あなたを大事に思って、お父様はこうおっしゃるけれど、許すわけにはいきません」
 と言った。
 ますます警戒して鍵の穴に土を塗って塗りつぶし、
「大学の君を、家の中に入れてはなりません」
 と言って、篁を追い出してしまったので、篁は曹司に引きこもって泣いた。
 妹が閉じ込められている部屋に行ってみれば、壁に穴が少しあいていたのをえぐって、
「こちらにおいで」
 と妹を壁際に呼び寄せて、語り合って泣いた。
 妹はここから出たいと思うが、まだとても若くて、そうしてくれる人もなく、悲しくて、どうしようもできなくて、とてもとても辛く思い、語り合っているうちに、夜も明けそうだ。
 篁は、

  数ならばかからましやは世の中にいと悲しきは賤の苧環
(私が大学の学生ではなく、人数に数えられる一人前の身分ならば、こんな仕打ちにあったであろうか。世の中でとても悲しいことは、身分が低いことだ)

 妹の返歌は、

  いささめにつけし思ひの煙こそ身をうき雲となりて果てけれ
(仮初めにもあなたに思いを寄せたために、我が身は煙となって、浮き雲に成り果てるでしょう。辛いわ)

 と詠んで、二人で泣きあった。

 夜が明けたので、篁が曹司に帰って、妹が食べることができるように菓子などを用意して、また持っていこうとすると、心は乱れて足も立つことができない。
 親しく遣っている雑色を使いにやった。
「ただ今気分が悪くて、伺うことはできません。その間、これを召し上がってください。心を落ち着かせてから、伺います」
 妹は、壁の穴の傍で篁を待っていたが、雑色がこう言ったので、

  誰がためと思ふ命のあらばこそ消ぬべき身をも惜しみとどめめ
(誰のためと思う命があってこそ、消えそうな我が身をも惜しんで生きようとしているのに)

 妹は篁からの食べ物を受け取らない。
 雑色は帰って、
「このようにおっしゃいました」
 と言ったので、篁はなんとかして、また妹のところに行ってみると、妹は三、四日何も食べないで物思いに沈んでいたので、息も絶え絶えになっていた。
「どうしていますか」
 と篁が言うと、妹は、

  消え果てて身こそ灰になり果てめ夢の魂君にあひそへ
(この世から消え果てしまって、我が身は灰になるでしょう。あなたの夢に私の魂が傍にいて欲しい)

 篁の返歌は、

  魂は身をもかすめずほのかにて君まじりなば何にかはせん
(魂は私の身にかすりもしない。ほのかな魂となって私の夢に入ったとしても、あなたを抱きしめることができなければ、なんになる)

 と、色々のことを言って泣くけれど、妹は答えなくなってしまったので、
「妹が死ぬ!」
 と篁が泣き騒いだら、その声を聞いて親は鍵を開けて中を見ると、息絶えてしまいそうな娘の様子を見て、心乱れて、他の家に去ってしまった。
 親が出て行った後に、篁は出てきて、部屋に入って見ると、妹は死んで横たわっていた。
 篁は泣き惑うが、甲斐もない。

 その日の夜、灯台の灯心をかき上げて、ほのかな光の中、篁は泣き伏していた。
 篁の足元のほうで、ざわざわと音がする。
 火を消して見れば、何者かが自分の傍で添い臥しているような気配がした。
 死んだ妹の声で、様々な悲しいことを言って、泣く声も、言うことも、ただその人であったから、一途に語り合って、泣く泣く触れようとすれば、妹は手にも触れず、手ごたえもない。
 妹を抱きしめて、我が身がどうなろうとかまわず、一緒に寝られたらいいと思うこと限りない。

  泣き流す涙の上にありしにもさらぬ泡ぬ浮へる
(私たちは泣き流す涙の上に臥していたが、避けることのできない死の別れによって、泡のように儚く虚しい縁であった)

 妹の返歌は、

  常に寄るしばしばかりは泡なればついにとけなんことぞ悲しき
(いつも寄り添う僅かな時は、泡のように儚くて、おしまいには溶けてしまうことが悲しい)

 と言ううちに、夜が明けてしまったので、妹の姿は消えて無くなってしまった。

 親は娘を捨てて去ってしまったので、とにかく葬式や後始末のことは、ただこの兄の篁がした。
 この家の人は皆、女を捨てて行ってしまったので、兄の篁、従者三、四人、学生一人でこの女と死んだ部屋をよく祓い清め、花を供え、香を焚いて、遠い所に火を灯して座っていると、この妹の魂は、夜な夜な来て、篁と語らう。
 死んで二十一日までは、妹の姿はとても鮮やかに見えた。
 二十八日目は、時々見えた。
 篁は、涙が尽きることなく泣いた。
 その涙を硯の水にして、涙ですった墨で法華経を書き、比延の三味堂にて、七日七日の供養をした。
 妹は、七日ごとの供養が終っても、ほのかに見えること絶えなかった。
 三年過ぎて、夢にも確かに見えなくなった。
 なお悲しいので、死んだ当時のように供養して、魂の訪れを待った。
 篁は、女にも近寄らないで、独り身でいた。

2014年2月 2日 (日)

篁物語2

 さて、この妹は、願いがあって、二月の初午の日に、稲荷神社に参詣した。
 供の人は多くもなく、女房二人、女童二人が従った。
 女房は色々な袿を、女童の二人は同じ色の袿を着ていた。
 妹は、綾織のかいねりの単衣襲の上に、唐の羅(うすもの)の桜色の細長を着て、花染めの綾の細長をうちかけて、裾を折って着ていた。
 髪は豊かで美しく、背丈より一尺ばかり長くて、頭の形がとても綺麗で、顔も不思議なほどこの世の人には似ないで、すばらしいばかりである。
 男の童は三、四人、それから妹の兄の篁が、付き添っていった。
 篁は妹にじかに付き添っているわけではないが、妹の前になったり、後ろになったりして、歩いて来た。
 参詣の途中で妹が疲れてしまったので、篁は可哀想になって、
「この篁に寄りかかりなさい」
 と言って寄ったが、妹は、
「いいえ、いいのです」
 と言って、道の真ん中に行ってしまった。

 そうしているうちに、兵衛佐ぐらいの人で、容姿が綺麗で、年は二十歳くらいの男が、稲荷への参詣で妹と会い、帰りに妹が道にしゃがんでいたのを見て、
「ああ、お気の毒に。このように苦労して、お出かけなさったのですか」
 と言った。
 篁は兵衛佐に嫉妬して、何か言うが、兵衛佐は無視して妹に言うには、
「唐車を作って、あなたをお乗せして、この辺りにある后の峰にお据えしましょう。女の身には、大后になるのが最高ですが、帝には、誰をあてましょうか」
 と言っているうちに、日が暮れてきたので、弁当を広げて食べさせようと、篁は一行を休ませて、この兵衛佐を先に行かせてやり過ごす。
 この兵衛佐は、自分も休憩するような様子で車から降りてきて、

  人知れず心ただすの神ならば思ふ心をそらに知らなん(注1)
(あなたが人知れず心の善悪を判断する糺の神ならば、私の心を推し測ってほしい――私とその男と、どちらがあなたに相応しいか、知ってほしい)

 妹の返歌は、

  社にもまだきねすゑず石神は知ることかたし人の心を
(社にもまだ男巫女を置いていない石神――私には、あなたの心の程を知りがたいです)

 兵衛佐は、また歌を寄こしたが、この篁は妹を急がして、車に乗せて連れ去った。

 この兵衛佐は、従者に後をつけさせて、
「どこに連れ去ったのか」
 と行方を見届けさせると、従者は、
「その家です」
 と見てきた。
 翌朝、妹に文が届いた。

「糺の神が教えてくださったので、あなたにこの文を差し上げます。
 かの石神のところで、今日お目にかかれたら」

 妹は文を手に取って見ていると、この兄の篁が走り出てきて、
「父上もお聞きになっている時に、えらく騒がしいな。この童は、何処から来たんだ。どこの好き者の使いだ?」
 と言ったので、童は帰って、
「御文は差し上げてきましたが、昨日一緒にいた男が、『どこの使いだ?』とおっしゃったので、奥からはお年を召した方の声で、『何事だ』などとお尋ねになったので、こちらのことを聞かれたら面倒なので、お返事は頂かずに帰ってきました」
 と報告したら、兵衛佐は、
「この狐の坊主め!」
 と童を罵った。

 また翌朝、兵衛佐は文を送った。

「昨日の文のお返事はいかがしたのでしょうか。
 たびたび使いをやりましたが、たいそう頼りないので、心配です。
 この童は、何もいただけずに帰ってきたので。

  あとはかもなくやなりにし浜千鳥おぼつかなみに騒ぐところか
(あなたを尋ねる手立てもなくなってしまったのでしょうか。波に消されて浜千鳥の足跡が砂浜から無くなるように。お返事をいただけなくて、気がかりで胸が騒ぎます)」

 この篁は、大学に出かけていた。
 樋洗童(ひすましわらわ)が文を受け取って、妹に渡した。
 妹は文を受け取り、
「文をとっておいて。大学のお兄様が使いの子を見つけるかもしれない。近くの家に待たせておきなさい」
 と言って、返事を書いた。

「昨日もあなたの文を見ましたが、さあ、どうでしょうか。

  たまぼこの道交ひなりし君なればあとはかもなくなると知らずや
(あなたとは道でたまたま行き逢っただけですから、行方もわからなくなるということは、知らないのですか?)」

 兵衛佐は文を見て、
「戯言をいう人だな。嫌だな、縁起の悪いことを言うものだ。どんなふうに言ったらいいか」
 と思う。
 兵衛佐は、時の大納言の子であった。
 返事には、

「あとはかもないはと、誰も信じませんよ。
 同じ道であなたに出会ったのですから。

  しばしばにあとはかなしと言ふことも同じ道にはまたもあひなん
(何度あとはかもないと言いますけれど、同じ道でまたお会いすることができるでしょう。道にはあなたの足跡があるのですから)」

 また、この文を例の童が持って来た。
 篁は道で童と出くわして、
「今これから返事をやるから」
 と文を受け取って、童を帰らせた。
 童が、
「こういうことです」
 などと言うと、
「例によって、考えなしの童だな。前に機嫌悪く言った人に、文を渡していいものか。この稲荷詣で、目つきが悪く、こちらを不愉快そうに思っていた男だぞ。これは、男からの文なんだぞ。そもそも、女の返事はどうした」
 と言って、兵衛佐は童を再び使いにやった。
 妹が兵衛佐からの文に返事をしたことを憎いと思っているかのように、篁が出てきて、
「文を差し上げる方は、昨夜男に盗まれてしまったから、探しに行くところだ。もしかして、女を盗んだのは、この文をくれた人かもしれない。おまえ、私をそこに連れて行け」
 と言ったので、童は慌てて、返事もろくにできずに走って逃げた。
 童から話を聞いた兵衛佐は、
「そうかもしれない」
 と思って、文も送らなくなった。

 妹は兄の策略とは知らないで、
「不思議と文が来ないわ」
 と思う折、この篁がいつものようにやって来た。
「行きずりの見ず知らずの人に、文を送り、懸想するとは、そんなお心だったのですか。かの人は、妻としてやがてあなたを迎えるでしょう。仲人は、あったほうがいいが、二人の間が許されたものではないので、いらないか」
 などと言うので、妹は尋ねる。
「どうして、私があの人の妻になるのでしょう。私とあの人とのことを、お兄様はどのくらい知って、そう思うのです?」
 篁は、
「世間のことを知らない人は、そのような事を言わないほうがいいだろう。可愛げのない有様だ。情けない。思ってもいなかった」
 などと言うので、妹は困って、
「どうして目に入らない人と、無理に会って、妻になろうと思うでしょうか、そんなこと思っていません」
 と言って、奥に入った。

注1
 『玉葉和歌集』巻九恋一では、兵衛佐ではなく、篁が詠んだ歌としている。

2014年2月 1日 (土)

篁物語1

 親が、とても大切に育てていた娘がいた。
 女の身につける習字や歌、音楽などの教養を全て習いつくしたので、親は、
「今は漢籍を読ませよう」
 と思い、
「師匠には、親しい人をつけよう」
 ということで、娘とは腹違いの兄で、大学寮の学生であった篁を選んだ。
 二人は腹違いの兄妹だから、疎遠で、娘は、
「顔を合わせたくないわ」
 などと言うけれど、親は、
「知らない人よりは」
 と言って、簾越しに几帳を立てて、二人を向き合わせて、娘に漢籍を読ませた。

 この篁は、妹がとても趣があって美しい様子を見て、少し親しく慣れていくままに、顔を合わせ、話などもして、漢籍の訓み方を示した点図というものを受け取らせ、妹が見ると、角筆(注1)で歌が書かれていた。

  なかに行く吉野の川はあせななん妹背の山を越えて見るべく
(妹山と背山の中を流れる吉野川は、干上がって浅くなってほしい。妹背の山を越えて、あなたを見ることができるように――二人の間の隔てを無くして、あなたと深い仲になりたいのだ)

 とあるので、
「この人は、こんな気持ちでいたのかしら」
 と妹は警戒したが、
「情けのないことはできないわ」
 と思って、

  妹背山影だに見えでやみぬべく吉野の川は濁れとぞ思ふ
(妹背山の影さえ映らないほど、吉野川は濁ってほしいと思います――あなたと深い仲になりたくないわ)

 また、篁からの歌は、

  濁る瀬はしばしばかりぞ水しあらば澄みなむとこそ頼み渡らめ
(水が濁るのは、ほんのしばしの間だけだ。川に水が流れている限り、やがては澄むのであろうと、頼みにしている――あなたが私の心を受け入れてくれるのを、頼みにしているよ)

 妹は、

  渕瀬をばいかに知りてか渡らむと心を先に人の言ふらん
(昨日の淵は、今日には瀬になるのですが、どちらになるかわからない渕瀬を、どのようなものかと知って、あなたは川を渡ろうと先に言うのですか――私の心を知らないくせに、どう思ってあなたはこんなこと言うの?)

 篁は、

  身のならむ渕瀬も知らず妹背川降り立ちぬべき心地のみして
(淵となるのか瀬となるのか、我が身のことはわからない。妹背川に必ず降り立つという心地ばかりがする――あなたと親しくなりたいという思いだけが、先走るので)

 こう言っている間に、男と女は憎からず思うものだから、二人の間は、そう疎ましいものではなかった。

 十二月の十五日頃、月がとても明るい夜に、二人が話をしているのを人が見て、
「誰だ? ああ、季節はずれな。師走の月夜は興醒めなものだと言うではないか」
 と言うので、篁は、

  春を待つ冬の限りと思ふにはかの月しもぞあはれなりける
(春を待つ身としては、冬もこれ限りだと思うと、春の訪れの前兆として、私には師走の月さえも心惹かれるものなのです)

 人の返歌は、

  年を経て思ひもあかじこの月はみそかの人やあはれと思はん
(何年たって思っても、女を思うことは飽きないでしょう。この師走の月は、興醒めなものでも、秘密の恋をする人には、趣があると思われるのでしょうから)

 こう言っているうちに、夜が更けたので、
「他人が変に思って見るでしょう」
 と言って、妹は奥に入った。
 篁は、曹司にはすぐには入らないで、口ずさみながら歩き回った。

 さて、ある朝に、しばらく篁は妹に漢籍を読ませていなかったので、父君が、
「おかしいな。篁が来ないなんて」
 と言って呼ぶと、篁は慌てて妹のところに来て、いつものように、漢籍類を集めて妹に教えたのだが、篁はこの妹のことしか心に無くて、間違いばかりしている。
 このように教えているうちに、角筆で、歌を書く。
「このように間違いなどしたことがないのに、どうして間違いばかりするのであろう。この頃は、物が考えられない。

  君をのみ思ふ心は忘られず契りしこともまどふ心が
(あなたのことばかり思う心は、あなたを忘れられない。他の約束したことは、わからなくなって、惑っているのですが)」

 妹の返歌は、

  博士とはいかが頼まむ人知れず物忘れする人の心を
(博士とはいえ、どうしてあなたを頼りにできましょう。私の気も知らずに、約束を忘れてしまうのなら)

 また、篁の歌は、

  読み聞ききて万の書は忘るとも君一人をば思ひもたらん
(今まで読み聞きした全ての書物を忘れてしまったとしても、あなた一人のことは、思い続けます。忘れることなどできない)

 こうして、この篁は、文をいつも作り直した。

注1
 象牙か竹で作った筆状の用具。

篁物語登場人物

小野篁
 この物語の主人公。大学寮の学生。


 篁の異母妹。篁と恋仲になる。

父君
 篁と妹の父。漢学者小野岑守。

母君
 妹の母。篁の継母。

兵衛佐
 妹の求婚者。

右大臣
 篁の求婚を承知し、篁を婿にする。

大君・中の君
 右大臣の長女・次女。

三の君
 右大臣の三女。篁の妻となる。

篁物語はじめに

 異母妹に恋した男の物語。

 今日から『篁物語』現代語訳の連載を始めます。
 嵯峨天皇の時代に実在した小野篁を主人公にしたこの物語は、『源氏物語』成立以前、十一世紀初頭に成立したと思われます。
 説話には学者、冥官としての篁が記されていますが、篁の恋を扱っているのは、この作品だけです。
 『篁物語』のストーリーは、前半は篁と異母妹の悲恋、後半は右大臣の娘への求婚譚で構成されています。
 元は別々の話を、妹の存在によってひとつにまとめたのが、この物語のようです。

 題名は『小野篁集』『篁物語』『篁日記』の三種あります。
 歌集なのか、物語なのか、日記なのか、あるいは説話集なのか。
 今回は『篁物語』の題名を採りましたが、ひとつの作品に三つの題名が伝わっているのは、興味深いです。

 『篁物語』の現代語訳に際して、以下の本を底本とし、参考にしました。
『日本古典文学大系七十七 篁物語 平中物語 浜松中納言物語』(遠藤嘉基校注 岩波書店)
『篁物語新講』(石原昭平・根本敬三・津本信博著 武蔵野書院)
『小野篁集全釈』(平野由紀子著 風間書房)

 冥官ではない、一人の恋する男としての若き篁の物語を、お読みください。

2013年11月19日 (火)

風に紅葉 あとがき

 「よろづにつけて心得ぬ人の上」の物語、いかがでしたか?

 私が始めて『風に紅葉』という物語を知った時、女装の美少年が登場するから、『とりかへばや』みたいに面白いのかしら、と期待して読んだところ、期待していたほど波乱万丈でもなく、あっけない終り方に、オリジナルには続きがあるのではないかと思いました。
 光る前内大臣は、いずれ出家するであろうことは推測できますが、住吉の右大将や、一品の宮の遺児の姫君や若君は、帥の宮の姫君のお腹の子は、どうなるの?

 辛島正雄氏は、「本物語が一貫して主人公の人生の奇跡を描こうとしたものと見る限りにおいて、完結している」(風に紅葉物語の完結性について――覚書三――『文献探究第11号』より)と述べています。
 巻一冒頭の序文から、一人の人物の身の上を描くのが原作者の目的なら、現存の二巻で『風に紅葉』という物語は、終っているのだと思います。
 それでも、光る前内大臣が出家後に残される人々のその後が気になります。

 さて、次の連載は、短編の『篁物語』です。
 嵯峨天皇の御世、冥府の役人で有名な小野篁、若き日の悲恋物語です。
 連載開始日は、2014年の2月の予定です。
 それでは、お楽しみに。

風に紅葉年立

※年立の基準は、物語の開始時、主人公光る内大臣の異母兄、三条の権大納言誕生年を第一年とする。
※年立の作成には、次の資料を参考にした。
『中世王朝物語全集15風に紅葉 むぐら』(笠間書院)所収年立
『中世王朝物語・御伽草子事典』(勉誠出版)所収年立
辛島正雄氏「『風に紅葉』物語覚書(一)」(『文献探究』第八号)

物語第一年
 京極の関白、元服の日に古き大臣の娘、三条の上と結婚し、三条の若君(一歳)誕生。

物語第九年
 京極の関白、朱雀帝の妹女一の宮を盗み出し、世の騒ぎとなったが許されて結婚。

物語第十年
 光る若君(一歳)誕生。

物語第十一、十二年?
 関白の姫君誕生。

年次不明
 京極の関白、京極の屋敷に宮の上と共に住み、三条の上への訪れは稀になる。

物語十四年
 三条の若君(十四歳)、元服して三位中将、権中納言に昇進。

物語十五年
 晩春、三条の権中納言(十五歳)死去。
 三条の上死去。
 この後、住吉の若君誕生。

物語十六、十七年
 光る若君(七、八歳)童殿上。叔母の弘徽殿の中宮に惹かれる。朱雀帝に見咎められて、弘徽殿には立ち入り禁止。

物語第二十二年
 光る若君(十三歳)元服。二位の中将になる。

物語第二十三年
 光る二位の中将(十四歳)、中納言兼右大将。
 光る右大将、一品の宮(十五歳)と結婚。
 四月、関白の姫君(十二、十三歳?)、春宮(十五歳)に入内。局は宣耀殿。
 夏頃、一品の宮懐妊。

物語第二十四年
 光る右大将(十五歳)、女たちから恋文を送られること多い。
 三月、岩清水臨時祭の還立の折、女(梅壺女御)から「かざしの花」の歌を送られる。
 同じ頃、一品の宮(十六歳)、姫君(一歳)出産。
 六月、宣耀殿の女御(十三、十四歳?)懐妊。
 七月上旬、一品の宮と姫君、参内。
 七月七日、乞巧奠。内裏で管絃の宴。
 八月、懐妊して三ヶ月の宣耀殿の女御里下がり。

物語第二十五年
 二月、光る右大将(十六歳)、梅の花の太政大臣邸の梅見の宴に招かれる。
 梅の花の太政大臣(五十八歳)、小姫君(十二、十三歳)の後見を光る右大将に依頼する。
 宴の後、光る右大将、太政大臣の後妻、梅が枝の上(二十六、二十七歳)と契る。
 梅が枝の上と梅の花の太政大臣の息子の左衛門督とは、不義の噂あり。
 光る右大将、一品の宮に梅が枝の上との情事を打ち明けた後も、梅が枝の上との関係を続ける。
 太政大臣の息子、大納言と左衛門督は光る右大将と梅が枝の上との関係に気づくも、抗議せず。
 梅壺の女御、実家の梅の花の太政大臣邸に里下がり。
 三月一日過ぎの夕方、光る右大将、太政大臣邸で梅が枝の上や女御たちが琴を弾いているところを垣間見る。
 光る右大将、梅が枝の上との逢瀬の後、梅壺の女御に昨年の岩清水臨時祭に貰った歌の返歌をする。
 三月十日過ぎ、宣耀殿の女御(十四、十五歳?)、一の宮(一歳)を出産。
 春宮(十六歳)、京極の関白邸に行啓。
 梅の花の太政大臣の孫で権大納言の娘の登花殿の女御、すでに春宮に入内。
 三月下旬、光右大将、梅壺の女御と逢瀬。
 光る右大将、漢籍のことで承香殿の女御に文を送る。返事の筆跡を見て、女御に心惹かれる。
 四月十日過ぎ、光る右大将、一条の古宮に里下がりしている承香殿の女御と会うが、思っていたほどの人柄ではなかったので、失望して宵過ぎに帰る。
 女御たちは光る右大将に心惹かれているものの、朱雀帝の呼び出しに泣く泣く参内する。
 冬頃、宣耀殿の女御懐妊。

物語第二十六年
 夏頃、宣耀殿の女御(十五、十六歳?)の容態悪化。
 七月一日、宣耀殿の女御里下がり。
 八月二十日過ぎ、祈祷の効果がないため、光る右大将(十七歳)、唐帰りの聖を迎えに難波へ行く。
 翌日、光る右大将、住吉で聖と会う。
 光る右大将、住吉の若君(十一、十二歳)と出会う。
 翌日、光る右大将、住吉の若君を伴って帰京。
 光る右大将、住吉の若君を一品の宮(十八歳)と京極の関白(三十九歳)に引き会わせる。
 光る右大将、住吉の若君を溺愛する。
 聖、上京。加持祈祷により、宣耀殿の女御回復。
 九月上旬、宣耀殿の女御、二の宮(一歳)出産。
 聖、三日ほど加持をした後、禄を置いて暁に旅立つ。光る大将への置手紙には、四、五年の間に災厄ありと忠告。その時に参上を約束する。
 光る右大将、住吉の若君に、式部の大夫の息子を学問の師、弁の乳母を後見に付け、二人を結婚させようとする。
 光る右大将、住吉の若君を宣耀殿の女御に会わせる。
 宣耀殿の女御、住吉の若君の馴れ馴れしさに怒るが、光る右大将は甘やかす。
[ここまで巻一]

物語第二十七年
 春頃か? 光る右大将(十八歳)、京極の関白(四十歳)に関白職を梅の花の太政大臣(六十歳)に一時譲ることを勧める。
 十一月一日、宣旨が下り、梅の花の太政大臣が関白になる。権大納言は右大将。光る右大将は左大将兼内大臣。
 十二月、梅壺の女御立后。弘徽殿の中宮は皇后宮。

物語二十八年
 一月、住吉の若君(十三、十四歳)、京極の前関白の子として元服。
 住吉の若君、中将になり、梅の花の関白の小姫君(十五、十六歳)と結婚。
 梅が枝の上(三十、三十一歳)、二品を賜る。
 八月、譲位。今上帝(十九歳)即位。先帝は朱雀院へ移る。
 京極の前関白(四十一歳)、復位。
 一の宮(四歳)、立坊。
 宣耀殿の女御(十七、十八歳?)、立后。局は弘徽殿。
 住吉の中将、三位。
 姫君(五歳)、朱雀院で袴着。
 前斎宮、上洛の後に出家。

物語第二十九年
 二月、光る内大臣(二十歳)、姫君(六歳)に琴を習わせるために前斎宮を自邸に招く。
 前斎宮、光る内大臣に惹かれるが、仏道修行に専念するよう諌められる。
 光る内大臣と住吉の三位中将(十四、十五歳)、前斎宮を嘲笑。
 十月、聖上京。来年は光る内大臣の災厄の年と警告。加行に励むよう勧める。
 光る内大臣、加行のために一品の宮(二十一歳)と離れることを悲しみ、関係のあった女たちを訪れる。
 十一月、光る内大臣、承香殿の女御の屋敷を訪れ、朱雀院の心にとまったために西の対で蟄居させられていた白雪の姫君を垣間見る。
 光る内大臣、白雪の姫君と契る。
 翌日も光る内大臣は出かけて白雪の姫君と会う。
 十一月の末、雪降る中を訪ねて、光る内大臣は白雪の姫君に夕方には他所へ移す約束をし、互いの単衣を交換する。
 翌日、白雪の姫君を迎えに使者を送るが、既に行方不明となっている。
 承香殿の女御は光る内大臣と白雪の姫君の仲を知って、激怒。姫君付きの女房侍従の君を中務大輔に与えて、老女房の西京に姫君を粗末な家に移させる。
 西京は夫に従って東国へ行くので、白雪の姫君が東山の尼上の所へ行く手助けをする。
 白雪の姫君、東山に行き、東山の尼上と三輪へ移る。
 十二月十日過ぎ、光る内大臣は承香殿の女御を訪れ、加行に入るために暇乞いをする。
 帰宅後、光る内大臣は一品の宮に白雪の姫君のことを打ち明ける。
 翌日、光る内大臣は梅が枝の上(三十一、三十二歳)に暇乞いする。
 同じ日の夜更け、梅壺の皇后宮に暇乞いする。
 光る内大臣、叔父の中務の宮から譲られた二条京極の屋敷に、加行のために移ることを京極の関白(四十二歳)に告げる。
 十二月二十日過ぎ、光る内大臣、二条京極の屋敷に移る。一品の宮と住吉の三位中将も同行する。
 十二月二十七日から、光る内大臣は三時の勤行をする。

物語第三十年
 正月三日間、光る内大臣(二十一歳)は一品の宮(二十二歳)と休む。
 住吉の三位中将(十五、十六歳)、宰相になる。
 光る内大臣、一品の宮の一人寝を気遣い、住吉の宰相中将を手引きする。
 一品の宮と住吉の宰相中将は苦悩するも、関係は続く。
 二月二十日過ぎ、勤行も残り僅かとなり、光る内大臣は桜の花を植える。
 三月一日過ぎ、勤行終わる。
 一品の宮、懐妊。
 四月、一品の宮、腹帯をする。
 夏、住吉の宰相中将、一品の宮を訪ねて思いを訴える。
 秋、一品の宮衰弱する。
 光る内大臣、姫君(七歳)を一品の宮のところへ移す。
 八月十日頃、一品の宮小康の折、光る内大臣、住吉の宰相中将、姫君と共に合奏する。
 九月、お腹の子が住吉の宰相中将の子だと思い知って、一品の宮は光る内大臣に恨み言を言う。
 九月十日過ぎ、若君(一歳)誕生。
 九月二十日の宵、一品の宮死去。遺体を白河の御堂へ移す。
 光る内大臣と住吉の宰相中将、共に嘆き、悲しむ。
 十一月一日、弘徽殿の中宮(十九、二十歳?)、光る内大臣を弔問。
 光る内大臣、一品の宮の肖像画を描いて本尊とし、阿弥陀仏と並べて夜の帳にかける。
 光る内大臣、一品の宮の硯の中に、弘徽殿の皇太后宮との文のやり取りを見て悲しみを深める。
 一品の宮の女房、七、八人が出家。肖像画に仕える。
 一品の宮の四十九日の法事。
 光る内大臣、京極の関白邸で故帥の宮の姫君と引き会わされるが、拒否する。
 光る内大臣、住吉の宰相中将に帥の宮の姫君の話をする。
 光る内大臣、弘徽殿の中宮を訪れ、仏道修行に専念したい旨を打ち明ける。
 光る内大臣、朱雀院を訪れ、朱雀院と弘徽殿の皇太后宮と対面。
 光る内大臣、京極の関白に官職を辞して仏道修行に専念したいと打ち明ける。京極の関白(四十三歳)は反対するも、拒みきれない。
 住吉の宰相中将、中納言権右大将。右大将、左大将兼内大臣になる。
 十一月十九日夜、住吉の右大将、光る前内大臣の伝言と偽って帥の宮の姫君を訪ねる。
 五節の頃、光る前内大臣、再加行。
 年末、光る前内大臣は夢に白雪の姫君を夢に見るが、もはやこの世の人ではないと諦める。
 弘徽殿の皇太后宮、出家。女院となる。
 弘徽殿の女院、一品の宮の遺児である若君を猶子に迎える。
 小姫君(十七、十八歳)、懐妊。来年二月に出産予定。

物語第三十一年
 新年の挨拶に、住吉の右大将(十六、十七歳)、京極の関白(四十四歳)が二条京極邸の光る前内大臣(二十二歳)を訪ねてくる。
 一月上旬過ぎ、帥の宮の姫君、修学院に参籠していたところ、住吉の右大将が通ってくる。
 左衛門督、按察使の大納言になる。
 按察使の大納言、住吉の右大将の子を懐妊していた帥の宮の姫君を盗み出す。
 住吉の右大将、帥の宮の姫君を盗まれて悔しがり、光る前内大臣に相談するが、諭されて諦める。
[ここまで巻二]

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