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2019年6月25日 (火)

倫敦の悩める日本人と迷探偵『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』

*少しネタバレ感想してます。

 

 ヴィクトリア女王が治める大英帝国首都、倫敦に留学した若き夏目漱石。

 でも、下宿先で聞こえる怪しい声に悩まされます。

 漱石は師事しているシェイクスピアの研究家、クレイグ先生に相談し、探偵シャーロック・ホームズを紹介してもらいます。

 そこから殺人事件に巻き込まれる夏目漱石。

 彼は無事に留学生活をおくれるのか――

 島田荘司原作の『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』。

 月刊チャンピオンREDでコミカライズ連載が始まり、1回目から怪しげな感じで、続きがめちゃめちゃ気になって、光文社文庫の原作を読んでしまいました。

 漱石とワトソンの手記が交互に書かれているので、視点が違うとホームズ像がこんなにも違うのかと、ちょっと、いいや、ものすごく驚きました。

 ワトソンは長年の友人であるホームズのことを悪く描かないのは、当然と言えば当然ですが、漱石からみたホームズの第一印象は、最悪。

 だけど、呪いをかけられた男が、一夜にしてミイラになった事件に関わるうちに、漱石のホームズに対する印象は改善し、事件が終わる頃には素晴らしい人物と認めます。

 まあ、漱石と会った頃のホームズは、麻薬中毒者で、無礼千万な男ですが、事件の犯人を追っている時、頭打ってからは正気に戻ったという展開は、唖然としましたが。

 ホームズとワトソンからみた漱石像も、最初は極東から来た異国人に対して舐めている感じがしましたが、最後は敬意をもって接しているように感じました。

 あと、タイトルに殺人事件とありますが、実際には殺人は起きていないです。

 被害者は餓死で、発見者がいかにも呪われて殺された風に小細工したせいで、「殺人がおきた!?」と皆騙されてしまいます。

 ホームズが殺人事件に偽装した犯人を見つけ、事件の謎を解いて、無事に解決するのはお約束なわけですが、可哀想なのは、被害者の姉。

 弟が呪い殺されたのは、自分の不注意のせいだと思いこんで、ショック状態。

 でも、被害者の姉の心を癒すために漱石がとった行動は、後の名作「吾輩は猫である」執筆のきっかけになる、という展開は、思わずにんまりしてしまいます。

 漱石とホームズ。

 実在の人物と架空の人物が、出会うはずが無いけれど、虚実ないまぜな感じが楽しいです。

 チャンピオンREDの連載も、ますます楽しみ。

 著者の後記で、漱石が日本に帰国後、短編「永日小品」でクレイグ先生の消息を書いているとあるので、そちらも読んでみなきゃ。

 

↓そして「吾輩は猫である」に続く

漱石と倫敦ミイラ殺人事件 (光文社文庫)

 

↓クレイグ先生の消息を知りたければこちら

文鳥・夢十夜・永日小品 (角川文庫クラシックス)

 

↓漱石と倫敦ミイラ殺人事件を読んでから読んでみると印象が違う

吾輩は猫である (角川文庫)

 

 

 

2019年6月22日 (土)

真実と偽物『ネガレアリテの悪魔 偽物たちの輪舞曲』

 人造人間と偽物少女のバディ。 

 読売新聞の書評で紹介されていた『ネガレアリテの悪魔 偽物たちの輪舞曲』、19世紀末のヴィクトリア王朝を舞台に贋作を巡る謎に巻き込まれた少女、エディスと、記憶喪失の青年サミュエルの物語です。

 両親を亡くしたエディスは叔父夫婦の養女として育ちますが、自分の出生に秘められたある理由で、養父母や兄たちに負い目を感じています。

 愛されれば愛されるほど、本当の子供ではないのに家族として自分がいることに申し訳なさを感じるエディス。

 当時の貴族社会の意識が、エディスの負い目、罪悪感の種になっています。

 だけど、贋作にまつわる異世界の戦いに巻き込まれ、サミュエルと一緒に敵、ブラウン卿と戦ううちに、ほんの少し変化が芽生えそう。

 サミュエルは自分が何者であるか知らず、贋作に込められた呪い?を解くことで思い出そうとします。

 武器が日本刀で、日本の呪文を唱えるから、日本と関係ある?

 それと、サミュエルはオートマタであると作中で判明しますが、完全な機械人形というより、サイボーグ?

 どうしてそういう体になったかは、たぶん続巻でわかるのだと思いますが、本作で一番驚きなのは、ブラウン卿の出自ですね。

 まさかヴィクトリア女王の――だったとは。

 しかも、ブラウン卿は吸血鬼、人外魔境の存在として世界を滅ぼそうとしている。

 ブラウン卿が並みの人間だったら、これほど大英帝国の闇、怪奇浪漫の雰囲気溢れる作品になってはいないでしょう。

 主役だけではなく、敵役も人外の者で、ヒロインであるエディスがただ一人人間として関わることになりますが、彼女は人としてどう成長していくのか楽しみです。

 サミュエルとの関係も、友だちになりましたが、いつか恋人になるのか?

 そして、エディスの父親は誰?

 

↓贋作を罰するのはエゴイズム?

ネガレアリテの悪魔 贋者たちの輪舞曲 (角川文庫)

 

2019年6月21日 (金)

この女絶対味方じゃないよ『紅霞後宮物語』第十幕

 小玉が主の後宮に、新しい妃が来ることになった『紅霞後宮物語』第十幕。

 ところが病弱だった彼女は亡くなり、代わりに異母妹の仙蛾が妃となることになったけど、これがとんでもない猫かぶりでしたね。

 献身的に姉を看病し、後宮に入ってからもそつなくこなしていたけど、自分から文林のお手が着くように小玉にお願いしちゃうあたりが、やっぱり妃らしいといいますか。

 味方になるどころか、新たな敵になりましたね。

 まあ、後宮では自分以外の女は皆ライバルなのですから、真桂や貴妃みたいな信奉者のほうがめずらしい。

 でも、仙蛾が来てから、小玉やお付きの女官たちの具合が悪くなって、流行り病ということになっているけど、本当は誰かに毒盛られていたし。

 状況は、仙蛾があやしい。

 実は姉の病死も、仙蛾がこっそり毒盛っていたんじゃない!?

 自分が妃になって、いずれは皇后に――なんて野望を抱いていたりして。

 それなのに、文林は仙蛾に手を出してた。

 好みじゃないとか、政治的に仙蛾を寵愛して子供ができるとまずいとか言っておきながら、しっかり子供ができることしてたから、この巻で文林の好感度は一気に下がります。

 だって、妻である小玉も表向きは仙蛾の懐妊を祝いながら、怒ってます。

 自分の具合の悪い時に夫の側室の懐妊知らされたら、心離れるわ。

 またまた夫婦の危機?

 どうなることやらと思いつつ、続くのでありました。

 

 『紅霞後宮物語』、文庫本で十冊目、外伝も含めると十三冊。

 そろそろ飽きがきて、読むの止めちゃおうかなーとちらっと思いましたが、小玉の人生を見届けなければいけないと思うから、やめられないのよねぇ。

 周りは小玉の味方ばかりじゃない、敵も大勢いるし、どうしてもそりが合わない人もいる。

 世の中そんなもんだけど、そりが合わなくても、実は陰でこっそり助けてくれていたというのは、救われる思いです。

 小玉の周辺の人たちの中で、特に気になるのは、死んだことにされている、あの皇子――

 母国を離れ、新しい出会いをした彼の心の変化は、幸せになる予兆か?

 

↓誰が敵で誰が味方か

紅霞後宮物語 第十幕 (富士見L文庫)

2019年5月25日 (土)

蘇る妖狐『玉藻の前』

 ああ……美しい……

 岡本綺堂の『玉藻の前』が中公文庫で復刊です。

 学研Ⅿ文庫のは持っていたのですが、手放していたので、中公文庫で買い直し。

 山本タカトの表紙がイメージにぴったりで、今度はずっととっておこうと思います。

 

 平安末期、九尾の狐にとり憑かれて傾国の美女となった藻――玉藻と、幼馴染みの千枝太郎。

 二人を中心に、関白忠通と左大臣頼長兄弟の権力争い、玉藻に恋して身を亡ぼす男たち、千枝太郎の師匠、陰陽師安倍泰親が妖を封じようと活躍する姿が描かれています。

 『玉藻の前』は、大正六年に「婦人公論」で連載されていたので、つづられる文章や設定は、現代の読者が読んだら古臭いなぁと思うでしょうが、古典物語を読んでいるようでいて、繰り広げられる恋と妖退治は、わくわくします。

 何年かぶりに読んで、初めて読んだ時と同じように感動しました。

 井川洗厓の挿絵も再録してあるので、連載当時の読者の気分になりました。

 巻末には、岡本綺堂生前には単行本未収録だった「狐武者」も収録されているので、狐つながりでとても面白かったです。

 『玉藻の前』が殺生石伝説をモチーフにしているのなら、「狐武者」のほうは、「太平記」に記されたエピソードを、岡本綺堂が空想を膨らませて書いた短編です。

 『玉藻の前』と同じく、「狐武者」に登場する狐も、心寄せる男に仇なすものには容赦しませんが、どちらかと言うと、葛の葉のイメージが重なる狐だと感じました。

 

 山本タカトがコミカライズしてくれないかなぁ。

 そんな願望を抱きつつ、『玉藻の前』読み終わりました。

 

↓地獄の底まで恋するおまえについていこう 

玉藻の前 (中公文庫 (お78-8))

 

↓さちみりほと波津彬子のコミカライズがオススメ

伝奇絵巻 玉藻の前

幻想綺帖 二 『玉藻の前』 (朝日コミック文庫)

 

 

 

2019年5月23日 (木)

傾国の美女なんていなかった『楊貴妃 大唐帝国の栄華と滅亡』

 映画『空海 美しき王妃の謎』を観て以来、楊貴妃や長恨歌に興味を持つようになりましたが、中国の歴史は専門外なので、初心者向けの本がないかなぁと思っていたら、講談社学術文庫で『楊貴妃 大唐帝国の栄華と滅亡』が出たので早速読みました。

 玄宗の生い立ちから安史の変までをポイントをついた説明、長恨歌や楊貴妃死後の歴史書・中国と日本文学に与えた影響などが解説してあるので、映画の背景をより理解できました。

 楊貴妃は、玄宗をたぶらかした悪女みたいなイメージが一般的ですが、実際に玄宗に取り入って政治に口出ししていたのは楊国忠や親族など。

 楊貴妃本人は後宮で栄耀栄華を誇っていたみたいですが、政治にまでは関与していなかった。

 ということは、楊貴妃のことを傾国の美女と呼ぶのは間違いではないかと感じました。

 楊貴妃を傾国の美女にしたのは、周囲と歴史、ということでしょうか。

 

 あとがきによると、もともと中公新書で出版されていたのを改めて講談社学術文庫から出したとのこと。

 それならもっと早く、できれば映画公開前に出してほしかったなぁ。

 

↓国を滅ぼした美女?

楊貴妃 大唐帝国の栄華と滅亡 (講談社学術文庫)

 

↓映画見直したくなりました

空海―KU-KAI―美しき王妃の謎 [Blu-ray]

 

↓映画原作&コミカライズ

沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ一 (角川文庫)

空海 -KU-KAI- 上巻 (カドカワデジタルコミックス)

 

2019年5月16日 (木)

失われた作品がここにある『一九三四年冬――乱歩』

 『梔子姫』?

 江戸川乱歩の未発表作?

 今は亡き久世光彦が書いた『一九三四年冬――乱歩』が創元推理文庫で出ていたのを見つけて、思わず手に取りました。

 最初、集英社から出版されて、山本周五郎賞を受賞、直木賞の候補にもなったので、タイトルだけは知っていましたが、当時はそれほど乱歩に興味はなく、スルーしていました。

 改めて読んでみると、昔の私に言ってやりたい。

 なんで読まなかったんだー!

 こんなに面白かったなんて、読まずにいて損していた!

 で、今は読めて良かったと安堵しています。

 

 内容は、1934年、昭和九年の冬の出来事。

 人気作家、江戸川乱歩は雑誌「新青年」に「悪霊」を連載していたが、内容に筆が進まず、休載を繰り返していました。

 そして、とうとう家族にも編集部にも黙って家を出て行き、麻布のホテルに身を隠します。

 そのホテルでの4日間の出来事を書いたのが、『1934年冬――乱歩』。

 4日間乱歩が何していたかだけを書いていたら、読まなかったかもしれません。

 だけど、乱歩が書いた『梔子姫』という新たな作品が同時進行で進められています。

 ホテルでの乱歩の様子と『梔子姫』執筆状況と内容が、夢と幻が絡み合うように展開するので、読んでいて蜜の味がする毒を舌の上で味わうような思いになりました。

 もちろん『梔子姫』は久世光彦の創作で、乱歩が書いたものではありません。

 でも、乱歩の未発表作を久世光彦が見つけて、自作の中に組み込んだのではないかと錯覚してしまうくらいです。

 また、ホテル内での乱歩のちょっと、いや、とっても引く変態行為の描写が、まるで見てきたかのように書いているので、乱歩初心者には、「乱歩って、こんな人だったんだ」と思うと思います。

 乱歩の変態性は指摘されていることなので、そうしたこともひっくるめて書いた乱歩像に、久世光彦の乱歩愛をひしひしと感じます。

 ああ、乱歩の書いた小説が読みたくなった。

 

↓乱歩以上に乱歩らしい小説が秘められている

一九三四年冬―乱歩 (創元推理文庫)

2019年5月12日 (日)

ホップ・ステップ・ジャンプ――『横溝正史探偵小説コレクション4 迷路荘の怪人』その2迷路荘の怪人

 さて、『横溝正史探偵小説コレクション4 迷路荘の怪人』表題作、角川文庫(『迷路荘の惨劇』)に長編版、光文社文庫(『金田一耕助の帰還』)にオリジナル版の短編が収録されているので、読み比べてみました。

 「迷路荘の怪人」は、最初短編として雑誌に連載、後に加筆して中編化して単行本化、さらに加筆改題した「迷路荘の惨劇」を出版。

 三段階で書かれて出版されたことになります。

 『横溝正史探偵小説コレクション4』に収録された中編の本作は、短編を加筆修正したので、一部の事件がとってつけた感があります。

 横溝正史もそれが不満だったのか、長編版は、一連の事件が全て繋がっているように自然です。

 書き直した甲斐があったと思えてなりません。

 ラストは短編では、実は犯人に命を狙われていた篠崎慎吾が娘と今後の生活について語り合い、めでたしめでたしとなりますが、中編ではカット、金田一耕助が糸女から青酸カリの小瓶を取り上げるところで幕引きになります。

 加筆修正長編版は、そこからさらに金田一と篠崎との会話が続きます。

 このように、冒頭は一緒でも、終わり方が違うと物語の印象が変わるのが「迷路荘」の面白さか。

 迷路に迷った末にたどり着いた出口。

 そんな感想を持ちました。

 

↓迷路で見つけたのは……&読み比べ

迷路荘の怪人 (横溝正史探偵小説コレクション)

 

↓連載オリジナル版短編

金田一耕助の帰還―傑作推理小説 (光文社文庫)

 

↓初の単行本中編

迷路荘の惨劇 金田一耕助ファイル 8 (角川文庫)

2019年5月11日 (土)

幻の単行本『横溝正史探偵小説コレクション4 迷路荘の怪人』その1旋風劇場

↑「旋風劇場」も収録

※ちょっとネタバレしてます。

 

 『由利・三津木探偵小説集成3 仮面劇場』の解説で、「仮面劇場」の変遷に好奇心をくすぐられました。

 最初、「仮面劇場」のタイトルで連載されたが、単行本化の際に「旋風劇場」と改題、その後長編化して「暗闇劇場」と改題、後にもとの「仮面劇場」に戻した、ということです。

 『由利・三津木探偵小説集成4』に収録されている「仮面劇場」のは、最終稿ですが、最初の単行本で、連載版に若干の加筆した「旋風劇場」が『横溝探偵小説コレクション4 迷路荘の怪人』に収録されているので、読んでみました。

 基本、虹之助が連続殺人事件の犯人で、ストーリーもほぼ一緒でしたが、「旋風劇場」は、虹之助の出生が最終稿の「仮面劇場」と違っていました。

 虹之助は、「仮面劇場」では梨枝子夫人の不義の子でしたが、「旋風劇場」では甲野四方太の甥となっています。

 この設定の変更に、横溝正史お得意の恩讐、血の因果などがグレードアップした印象があります。

 虹之助と琴絵が従兄弟同士よりも、姉弟であったほうが、許されぬ恋、禁じられた関係度が強烈です。

 長編の「仮面劇場」より、中編の「旋風劇場」は、短いのでサクサク読めますから、「仮面劇場」を読む前のウォーミングアップに「旋風劇場」を読んでおいて心の準備をしておいたほうが良いでしょう。

 なにせ、「仮面劇場」は、綺麗な花には毒があるを思わずにはいられないですから。

 

↓幻の本を手元に&読み比べ 

迷路荘の怪人 (横溝正史探偵小説コレクション)

由利・三津木探偵小説集成3 仮面劇場

2019年5月10日 (金)

同じタイトルで違う物語『中世王朝物語全集13 八重葎 別本八重葎』

 笠間書院の中世王朝物語全集のシリーズがやっとでました。

 今回刊行されたのは13巻、『八重葎 別本八重葎』です。

 前回の「いはでしのぶ」の時もそうでしたが、ページ数がぶ厚いです。

 八重葎も別本八重葎もそんなに長い物語じゃないのになぁと思いながら読むと、解題と翻刻一覧がシリーズ一細かく、詳しく載っていました。

 これはぶ厚くなるのも頷けます。

 八重葎の諸本は五本、それらの書誌伝来の全ての情報が記されています。

 別本の方も、「源氏」との関係についてや、本居宣長の「手枕」との違いも記載され、「源氏外伝」としてみるか、それとも「源氏」に依った物語としてみるかを思案するのに指針になります。

 妹尾好信氏の通釈(八重葎は広島大学大学院文学研究科論集71~72号・表現技術研究7~8号収録 別本は表現技術研究11号に収録)と合わせて読んでみると面白いですよ。

 あと、今回ただ一つ不満なのは、八重葎の年立が収録されていないことです。

 年立好きな私にとって、年立ないのは我慢できないです。

 八重葎の年立、自分で作るしかないじゃないですかー!

 

↓悲恋物語&怪談話?

八重葎 別本八重葎: 中世王朝物語全集13

 

2019年5月 9日 (木)

巣守巻のリメイク?『兵部卿物語全釈』

 武蔵野書院から中世王朝物語の一遍、『兵部卿物語全釈』が出たのでさっそく読んでみました。

 注釈が詳しく、現代語訳もついているので初心者でも楽に読めます。

 笠間書院の中世王朝物語全集にもラインアップされているので、こちらが出版されたら、武蔵野書院版と笠間書院版を読み比べてみたいです。

 今上帝の二宮である兵部卿の宮が、故按察使大納言の娘とのすれ違いの恋の物語を描いたこの作品、既に指摘されているように、「源氏」「狭衣」からの影響が全体にわたって見られます。

 兵部卿の宮と女君の関係が、「源氏」からは薫・匂宮・浮舟の、「狭衣」からは狭衣と飛鳥井女君の関係を模倣しているようです。

 しかし、女君が出奔し、出家した後、追ってきた兵部卿の宮から逃れる結末は、夢浮橋巻からの影響はもちろん、失われた巣守巻からも影響を受けたのではないかと、私は勝手に思っています。

 巣守巻は、巣守三位が匂宮と薫に同時に愛されるも、出家し、山で薫と再会するという筋がわかっています。

 『兵部卿物語』の作者は、巣守巻を読んだことがあって、巣守巻を元に執筆したのではないでしょうか。

 そんな妄想しながら読みました。

 

↓悲しき恋物語のひとつ

兵部卿物語全釈

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