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2012年6月19日 (火)

夜の寝覚巻五 13

 さて、大皇宮は、十六夜の内大臣が、相変わらず北殿に足繁く通っていると聞いているので、堪えきれないほど腹を立てていた。
「女一の宮を蔑ろにするなど、許せない。ああ、可哀想な女一の宮。どのような気持ちでいることでしょう」
 大皇宮は、女一の宮のことが心配で、とても会いたく恋しく思った。
 そこで、十二月の中旬、女一の宮に会いに朱雀院を退出し、南殿を訪れた。
 事前に、
「いつお訪ねします」
 との文も無くて、急にやって来たので、南殿では驚いて応対する。
 ところが、今宵は朱雀院から南殿へのほうは方塞がりで、禁忌の方角であった。
 后という高い身分でありながら、突然出かけて、方塞がりの日にやって来て、本当に軽々しい振る舞いだ。
「困ったな。どちらへ方違えしたらよいか」
 人々は、どうしようと騒ぎあった。
 久しぶりに女一の宮に会いに来たのに、行く先を変えなければならないから、大皇宮の機嫌が悪くなる。
「せっかく女一の宮に会えると楽しみにやって来たのに。それに、寒くて気分も悪くなってきたわ」
 この数ヶ月、女一の宮が心配で、思い悩んでいた上に、今宵は雪が降り、冬の寒さが体にこたえて、風邪気味の様子だ。
 ちょうど北殿を訪れていた十六夜の内大臣は、大皇宮の訪問の連絡を聞いて、どちらにお移りしていただこうかと考えた。
「帝の母后であられるから、めったなところでは大変失礼だ。さて、何処にしよう。大皇宮のご気分も優れないようだから、近くでないと」
 南殿の近くで大皇宮をもてなすに相応しいのは、さしあたって北殿である。
 十六夜の内大臣は、
「こういうわけでして」
 と寝覚の上に訳を話して、大皇宮を北殿に招くことを伝えた。
 北殿では、急なことだと誰もが思い、口にも出すが、慌てて大皇宮を迎える準備をした。
 寝覚の上は小姫君を連れて寝殿を出て、東の対に移った。
 中の姫君と三の姫君も、住まいの対を出て、他所に移った。
 寝殿に大皇宮の御座所を設け、西の一、二の対から渡殿にかけて、女房の局にいたるまで、大急ぎで整えた。
 大皇宮は、北殿に入った途端、臥せってしまった。
 北殿では、
「医師を呼べ、祈祷をせよ」
 と大騒ぎになる。
 幸い大皇宮の風邪は、二、三日で治ったが、
「このままここにいましょう。私が同じ屋敷にいるのに、内大臣も北の政所に近づいて、聞き苦しい真似はできないに違いないわ」
 と考えて、方違えの短い滞在のつもりが、療養と称して、そのまま北殿に逗留することになった。
 朱雀院からも、冷泉帝からも、お見舞いの文が届く。
 大皇宮は、
「雪で気分が優れませんので、とても苦しいものですから、もうしばらくこちらに」
 と返事を出す。

 大皇宮の思惑通り、十六夜の内大臣は、大皇宮が北殿に滞在し続けているので、やって来ても、人目もあるので、長居することができずに、早々に南殿に帰るしかない。
 寝覚の上も、たまに対面しても余所余所しい態度で接するので、十六夜の内大臣の悩みは深まるばかりだ。
「私が北殿にばかりいては、『女一の宮を大切に扱っていない』と、朱雀院も、大皇宮も、お怒りになるだろう。だが、私が会いに行かなければ、北の政所も、『この程度のお心だった』と私の愛情を疑うに違いない。ますますあの方の心が、私から離れてしまう。ああ、あの方を愛していながら、どうして女一の宮と結婚してしまったのだろう。あの方のゆかりとして、心が慰められるかもと思ったのが、間違いであった。女一の宮がいくら高貴な身分の方だと言っても、私の妻は、あの方以外にいない。大君とも、女一の宮とも、誰とも結婚せずに、独り身を通していたら、こんな苦しい思いはしなかっただろうに」
 十六夜の内大臣は、今更ながらに女一の宮との結婚を後悔して、寝覚の上を恋しく思う心が増さっていく。

 大皇宮の具合が良くなった頃、寝覚の上が寝殿を訪れて、大皇宮に挨拶をした。
 后の宮という、気を使う相手との対面なので、髪を洗い、衣装を調えた姿は、気品高く、華やかで、今が花の盛りのような美しさである。
 髪は豊かに黒く、扇をかざして隠しても、垣間見える容貌の美しさは、言葉にはできない。
 去年よりも今年、昨日よりも今日のほうが美しさが加わるという風に、見る人を惹きつけずにはいられない。
 大皇宮も、お付きの女房たちも、眩しいまでの寝覚の上の美しさに、この世に二人といないであろうと感嘆した。
 ご機嫌伺いに十六夜の内大臣が北殿にやって来ても、長居はしないで女一の宮のもとに帰っていくので、大皇宮はすっかり安心していたが、寝覚の上を見て、また不安になった。
「噂どおり、美しい人だわ。このように美しい人が近くにいては、男の心も妻一人を大切にすることは難しいでしょう。こちらが恥ずかしくなるような人の近くで、若い女一の宮の至らなさが内大臣に見られていると思うと、胸が苦しくなるわ」
 思わず見惚れてしまう程の寝覚の上の美しさに、大皇宮の心配は尽きない。
「やはり、参院を勧めましょう。この人を内大臣から引き離さなければ」
 まずは、
「こうして手厚く看病してもらい、気分の悪さも、大分良くなりました。本当に感謝しています」
 と言って、大皇宮は寝覚の上に謝意を伝えた。
「恐れ多いことでございます。十分におもてなしできずに、心苦しく思っております」
 恐縮する寝覚の上に、大皇宮は親しく声をかける。
「余所余所しくしないでください。関白と私は、血の繋がりからいっても、切れない間柄。亡き関白は、あなたのことを、大層気にかけておいででした。私も同じ心であなたのことが気がかりです。朱雀院と源氏の入道のご縁と合わせても、あなたは院と私がお世話して差し上げるべき人なのです。これからは、親しく、朱雀院にも遊びに来てください。院も女一の宮が内大臣と結婚してから、お寂しく、退屈しておられます。あなたに来てもらったら、よい気晴らしになるでしょう」
 寝覚の上は、まさか朱雀院への参院を勧められるとは思ってもみなかったことなので、内心はひどく驚いていたが、
「頼りにする方々と別れて、心細い身の上ではございますが、大皇宮様から、このようなお言葉を頂いて、これ以上のことはございません。ですが、物の数でもない我が身でありますので」
 穏やかに参院を断った。

 寝覚の上が断っても、大皇宮は諦めず、折をみては寝覚の上を寝殿に呼んで、
「院は、私が邪魔をしているのかと、とても憎らしそうに仰せなので、冗談でも辛くて。同じことなら、ご決心なさい」
 などと、とても親切そうに言うので、困ったことだと寝覚の上は思う。
 大皇宮は朱雀院の后で、冷泉帝の母后であるから、他の女御は、その威光に誰もが圧倒されて、見る影もない。
 昔も、大皇宮に遠慮して、娘の入内を諦めたという話はいくつもある。
 今、寝覚の上が参院したところで、大皇宮の気持ちが変わったら、面白くない、聞き苦しいことも起こるだろう。
「大皇宮は、私と内大臣殿との噂を聞いておられるのだわ。内大臣殿が私のせいで、女一の宮を蔑ろにしていると思われて、だからあれほどまでに、私に朱雀院に参るよう仰せなのだわ。私は一世の源氏の娘で、帝の血を引く孫、前の関白の妻とはいえ、后腹の姫宮とは、比べられないほど劣っている。内大臣殿が、どうして私を女一の宮と同等に扱うでしょうか。高貴な姫宮を正妻にして、内大臣殿が心を移されないはずがない。やはり、私が内大臣殿と結婚しないほうが、どなたにとっても、穏やかなこと。それにしても、大皇宮に私の参院を諦めていただくには、どうしたらいいのかしら」
 あれこれ考えると、寝覚の上の悩みは尽きない。
 今はただ、尚侍参内の準備に専念する。
 そうして暮れも近くなっていく。

解説
 この章は、沙羅の創作。
 現存本巻三以降で、尚侍参内前に大皇宮が寝覚の上に朱雀院への参院を勧めたこと、大皇宮が北殿に滞在したことが記載されている。
 第三部とのつながりを保つため、大皇宮の北殿訪問滞在を加筆。
 大皇宮がどのような理由で北殿を訪問し、滞在したかは不明であるので、方違えに来て、風邪を引いて寝付いてしまったために、北殿に滞在することになったと想像して書いた。
 大皇宮が老関白と血縁であるとは現存本には記載されていないが、現存本巻三以降、司召の折に参内し、弘徽殿を局にしていることなどから、母后とはいえ、大皇宮の権勢の強さは、摂関家の出身であることが伺える。
 寝覚の上が、自分を女一の宮より劣っていると思う描写は、現存本巻三以降に記載されている。
創作にあたり参考にした物語
『源氏物語』帚木巻・若菜上巻・竹河巻

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